クラリティ法案の上院審議を混乱させている最大の火種が「倫理条項」だ。クラリティ法案の全体像はこちらで解説しているが、本記事ではこの倫理条項が何を求め、なぜ共和党内で猛反発を受けているのかを詳しく掘り下げる。
倫理条項とは何か——「トランプよ、暗号資産から手を引け」
2026年7月22日に上院に提出されたクラリティ法案の統合テキストには、民主党が主導する形で「倫理条項(Ethics Provision)」が追加された。その骨子は以下のとおりだ。
- 大統領・副大統領・議会議員・規制当局幹部などの高官は、任期中に暗号資産関連ビジネスから直接的な財務的利益を得ることを禁じる
- 該当する資産は信託(ブラインドトラスト)に移管するか、売却することを義務づける
- 違反した場合は利益の没収および刑事罰の対象となりうる
条文上は「高官全般」を対象としているが、実質的なターゲットが誰かは明白だ——ドナルド・トランプ大統領その人だ。
なぜトランプが問題視されるのか

トランプ大統領と暗号資産の関係は2024年以降、急速に深まった。NFTプロジェクト(「Trump Cards」シリーズ)による収益、自身が関わるとされるメームコイン「TRUMP」「MELANIA」の流通、さらにはトランプ一家が関係するDeFiプロジェクト「World Liberty Financial」の存在が報じられている。
民主党の主張はシンプルだ。「暗号資産規制を決める権限を持つ大統領が、同時に暗号資産ビジネスから収益を得ているのは利益相反であり、規制の中立性が損なわれる」というものだ。
実際、トランプ政権はSECのゲンスラー前委員長を交代させ、暗号資産に友好的な委員を据えた。FTX崩壊後に続いた業界への訴訟攻勢は大幅に縮小され、「暗号資産は証券である」という従来方針も事実上転換されつつある。こうした政策変更が、大統領自身の資産に有利に働く可能性は否定できない。
共和党はなぜ反発するのか
共和党内のトランプ支持派にとって、この倫理条項は「民主党によるトランプ個人攻撃」に映る。「暗号資産法案に政治的な条件を持ち込むな」というのが彼らの立場だ。
また、倫理条項の適用範囲が曖昧で「議員も対象」となれば、暗号資産関連株を保有する多くの議員自身が影響を受ける可能性もある。これが党を超えた反発の背景にある。
上院多数党院内総務のジョン・スーン氏(共和党)が「賛成票が足りない」と認めた主因のひとつが、この倫理条項をめぐる党内のまとまりのなさだ。
民主党が倫理条項に固執する理由
民主党にとってこの条項は単なる「嫌がらせ」ではない。暗号資産規制が骨抜きになることへの本質的な懸念がある。
「規制する側が規制される側でもある」という構造は、金融規制の歴史においても繰り返されてきた問題だ。トランプ政権が暗号資産を積極支援する姿勢を見せれば見せるほど、「誰のための規制法案か」という疑念が強まる。倫理条項はその答えを法律に明記しようとするものだ。
この対立が示す暗号資産規制の本質
12年この業界を見てきて、今回の対立は「暗号資産の技術論争」ではなく「政治的利益の争奪戦」であることを改めて感じる。BTCがコモディティかどうかより、誰が規制権限を握り、誰がそこから利益を得るかという権力闘争が、法案成立の最大の壁になっている。
投資家目線では、この倫理条項問題が解決しない限りクラリティ法案の成立は難しい。9月以降の審議再開時に倫理条項が削除・修正されるか、または民主党が折れるか——どちらかの決着が見えた時点で市場は大きく動くだろう。その動きに備えておくことが、今できる最大のリスク管理だ。